新 クーロン土圧の信憑性を探る


たいそうな表題ですが,クーロン土圧についてちょっと気になることがあるので,ここで述べます.

 それは,「土木技術 1999 8月号」の「片持ばり式擁壁の合理的な土圧計算法の一試案」と題された,(株)第一コンサルタンツ常務取締役・工学博士の 右城 猛 氏,および(同社)技術部構造課長補佐の 筒井 秀樹 氏 が書かれた記事でした.

 私は以前から,クーロン土圧理論は,本来重力式擁壁のように,かかと版が存在しない構造物にどのような形で土塊重が作用するかを解析した理論であると解釈しています.それが便宜的にかかと版のある擁壁などにも適用されていますが,それは仮想背面という名称で,「あくまで仮想です.本来は違いますよ.」ということではないかと思っています. 

 以前会社員だったころ,長大法面を背面に持つ擁壁を何タイプか計算した時に気になることがあり,土圧理論書を読んでからそう思うようになりました.しかし,指針などでは当然のようにクーロン土圧を採用していたこともあり,しばらくの間このことは誰にも話をしたことはありませんでした.

 しばらくして,その「長大法面を背面に持つ擁壁の考え方について話を聞かせてもらいたい」と役所から連絡があり,当時構造担当だった私は命を受けて役所に説明に行きました.そこでしばらく説明をしているうちに,役所の担当者もクーロン土圧に懐疑的であることがわかり、しばらくの間その話をして帰ったのです.

 気になる点というのは,「通常,擁壁はかかと版上の土重が抵抗となり,かかと版を長くすると,擁壁は安全側になるが,それは背面土が水平である場合に限られる.」ということです.土圧が,あるはずのない仮想背面に作用する設計は合理的ではない.擁壁の転倒や水平移動はたて壁に土圧が作用するからおこるのではないか.したがって,法かつぎの場合でもかかと版を伸ばせば、安全率が向上するのが正解ではないのか.という点です.

 ご存知のように,法かつぎの擁壁の場合,かかと版を伸ばすと,仮想背面高が大きくなり,土圧力のパラメータは高さの二乗であるため,背面土自重が増えてもなかなか安定計算が成立せず、背面土の法勾配によっては安定の安全率は減少します.

 仮設土留めの土圧計算にはランキン土圧が用いられますが,これは単にクーロン土圧式を背面傾斜角を0にして,書き換えただけのものです.また試行くさび法クーロン土圧の発展形です.しかし,仮設の設計に用いられる土圧は設計地表面はあくまで水平です.地表面に法面などがある場合は,これを載荷重に置き換えることによりその設計地盤面を水平にします.通常の仮設構造物には,擁壁のようなかかと版はありませんから,この計算法こそが,クーロン土圧理論にかなった計算法ではないかと思います.

 しかし,擁壁の設計では,背面の法面を載荷重として計算することは認められていません.背面に既設構造物等がある場合,これを載荷重に換算しますが,その時はそれに加えて,外部土圧としてこの構造物の影響荷重を主働土圧に加えますが,背面土の自重にこれを加えません.しかし断面計算時はこれを加えます.現在の擁壁設計プログラムで,これを手書き注釈なしでできるものはありません.(どこの基準にもそのようなものがありませんから)

 したがって,私は,法かつぎ擁壁(かかと版あり)については,通常のクーロン土圧法や,試行くさび法によるのではなく,発展法かもしくは独自の土圧理論式を使うのが,安全・経済設計になるのではないかと考えています.

冒頭に書いた「片持ばり式擁壁の合理的な土圧計算法の一試案」は,非常に長文であるためここに掲載できませんが,(B5-11ページ) 興味のある方はこちらまで.

また,この考えに対するご意見等がございましたらこちらまで


2000.11.11追記

本日 右城 猛 氏よりメールを頂きました.

書籍が出版されていますので,みなさんも,「擁壁Q&A選集」(理工図書)を購入して「改良試行くさび法」の理論を理解してください.